面接を受ける人が知っておくべき、評価される視点の実態
『採用の仮面』は、人材業界のリクルーターである主人公・馬道透の視点を通じて、採用活動の裏側を描いたビジネス漫画です。
単なる採用エピソードの羅列ではなく、「なぜこの人が通るのか、なぜこの人が落ちるのか」をロジカルに見せる構成となっており、面接を受ける立場にとっても参考になる内容が多く含まれています。
本レビューでは、面接に臨む読者にとって有用だと感じた観点を3つに整理して紹介します。
- 「取り組み・成果・職務上の強み」の三点セットで語る
作中では、ある候補者の面接を通じて、面接官の馬道が「その人の強み」をどのように捉えているかが丁寧に描かれています。
単に「成果が出ました」という話ではなく、その成果に至るまでにどんな取り組みがあったか、そこからどういった再現性のある力が導き出されるか、という視点で判断されています。
転職活動でも、自己PRや職務経歴の中で以下の3点をセットで語ることが求められます。
• 取り組み:どんな課題にどう取り組んだか
• 成果:それがどのような結果をもたらしたか
• 職務上の強み:それを通じてどのような能力が身についたか(または元々あったか)
特に、即戦力が求められる中途採用においては、この3点が一貫しているかが面接官の納得感に直結します。
成果だけを抽出して話すと、聞き手は「たまたまでは?」と感じやすく、取り組みや背景の説明があってこそ信頼につながります。
- 言っていることと行動・表情が一致しているかを見られている
『採用の仮面』では、候補者の発言と実際の行動・態度が一致していない場面に、馬道が明確に違和感を抱く描写があります。
これは、現実の面接でも非常によく起きることであり、評価者は「話している内容そのもの」以上に、「言っていることと振る舞いが整合しているか」を見ています。
たとえば以下のような不一致は注意が必要です。
• 「チームで協力して動くのが得意」と言っているのに、具体的なエピソードがすべて単独行動に関するもの
• 「御社のビジョンに共感している」と言いながら、直前まで他業界を志望していた経歴をうまく説明できない
• 「感謝しています」と言いながら、語り口に共感性や配慮が見えない
こうしたギャップは、単なる言葉選びの問題ではなく、相手の“理解の深さ”や“自己認識力”の低さとして伝わります。
作中では、馬道がそれを「仮面」と表現しており、面接官はその仮面の奥を見ようとしている、という構造が描かれています。
- EQ(感情的知性)も見られている
作中にはEQ(Emotional Intelligence:感情的知性)というキーワードが登場します。
EQとは、自己認識力や感情の制御力、他者との共感力などを指し、昨今のビジネスシーンではIQ以上に重視されることもあります。
馬道が重視しているのも、このEQです。
面接官として、論理性や成果だけでは測れない「人としての成熟度」や「協働可能性」を確認するために、EQの有無を探っています。
実際の採用面接でも、以下のようなEQの要素が観察されています。
• 話の中に主語のバランスがあるか(「自分」「相手」「チーム」など)
• 自己評価と他者評価のギャップを把握しているか
• 緊張下でも相手の話に耳を傾ける姿勢を保てるか
面接はスキルテストではなく、協働関係を築けるかの“対話”です。
その意味で、EQの高低は直接的な評価項目でなくとも、選考結果に強く影響する要素であることを、本作はうまく可視化しています。
まとめ:面接を「採点される場」から「言語化する場」へ
『採用の仮面』は、採用側の人間の思考や観察ポイントを細かく描いており、面接を受ける側にとっても非常に学びがある内容です。
「どう見られているか」を事前に理解しておくことで、準備の方向性が明確になりますし、話す内容に一貫性が出てきます。
面接は、評価されるというよりも、「自分の経験・考えを、他者にどう伝えるか」の言語化の場です。
本作を読むことで、その構造や見られ方の本質がクリアになり、結果として面接での表現力・納得感が高まるのではないかと思います。